-
私が愛した男たち
2017年6月30日
私が愛した男たち・・・
その昔、こんな名前がついた映画かドラマか小説があったような気がするが、それはさておき、2年前まで会社員だった私は、仕事の性質上、女性社員と男性社員の割合が「1対9」という、今の自分からは想像もつかないような環境に身を投じていたせいか、男性社員と組んで仕事をすることが日常茶飯事であった。
30年という会社員生活の中で、何人もの男性社員と組んで仕事をしたわけだが、その中でも特に印象深い一人の男性がいる。
彼が新卒社員として入社したのは、時期外れの5月。どうやら就職試験に漏れ、「コネ」というものを使って入ってきたらしい?とい噂だったが、事実かどうかは結局わからずじまいだった。
彼は背が高く、どちらかというとぽっちゃり体系。頭頂部は既に薄く、23歳という若さにしては、既に「オヤジ」の域に入っていた。
体格の割にはおとなしく、その上無口で世辞の一つも言えない彼は、当然のごとく、先輩の男性社員からは可愛がられず、お局の私と組むはめに。
でも本当の彼は、無口ではなかった。
後から知ったことだが、彼は洞察力がとても鋭く、一瞬でその人の「心の中」が分かってしまうという特殊な能力を持っていて、「危険」と判断した人に対しては、決して心を開かないと、幼い頃から決めていたそうだ。(何かトラウマであったのだろうか???)
私とは普通に話をしてくれたので、どうやら彼から見て私は「合格」だったようだ。
彼の父親は若くして脳溢血になり、介護が必要な状態だった。私の母も介護状態だったので、彼とは話も合い、介護につても語り合う仲間でもあった。
彼は実に頭が良かった。数字にも強く仕事も良くできた。口先だけの男どもよりよっぽど男らしく、そして心から信頼できるヤツだった。
だが、残念なことに出世はしなかった。
会社というところは実に愉快なところで、実力よりも、小手先や口先だけで出生をしていく男どもが多い中、「無口で世辞が言えない」とうだけで、出世街道から外されてしまった彼がふびんにも見えた。
彼とは5年仕事を共にした。そして彼が入社してからちょうど10年目の春、彼は会社を去っていった。
理由は寝たきりの父親を介護するためだった。
それからは毎年、年賀状でのあいさつだけになってしまったが、今年送った年賀状が「宛先不明」で、私の手元に戻ってきた。
介護していた父親は既に亡くなっており、独身だった彼はどうなってしまったのだろうか?今、どこにいるのだろうか?
そんな思いでいたところ、彼が夢の中に登場した。
彼は元々、東京まれの東京育ち。大学も東京。すっかり垢抜けオシャレになった彼は、結婚が決まったと嬉しそうに話してくれた。
もちろん、これは夢の中でのことである。
でもきっと、今広い世界のどこかで、彼は人生を共にする素敵な女性と一緒に、胸弾む毎日を過ごしているのだと、何の根拠もないが、何故かそう思える確信が私にはある。
いつかどこかで、彼と再会することがあれば、真っ先に言いたいことがある。
それは、「あなたが大好きだったあの甘~い煎餅を、あなたに黙って全部食べてしまったのはこの私です。許してください」と。
人生の一時を、同僚として過ごした日々。彼には数えきれないほどの「恩」があるが、未だに返せないでいるのが心苦しい。
だがきっと、またふいにどこかで彼に会える気がしている。その時は、私が食べてしまったあの甘い煎餅を、私のおごりで、思いっきり食べて欲しいものである。
あの日二人で見た、真っ赤に燃える夕焼けを思い出しながら。